第15章 お茶会
この街の海は掛け値なく美しい。
沖を走る漁船の白い船体が、幾筋も線を描いて行き過ぎる。碧く凪いだ地平線が、それより僅かに透き通った空の色に、混ざりそうで混ざらない境を保って少しくカーブを描いている。
胸がすく。
ジャンの料理は絶品だった。
ルバーブジャムには苺が相性の良い風味を添えており、良質のバターが香るクランブルは飽くまで軽く芳ばしい。ホロリと崩れるタルト生地は、口に含むとしっとりと滑らかな食味で、微かな塩気が更に食欲をそそる。
パッキパキで噛みしめると脂の弾けるソーセージを巻いた仄甘いクレープ生地は、縁のカリッとした焦げ目が絶妙なアクセントだ。
···こら食い過ぎてしまうのう。
カクはオレンジとレモンが香る紅茶を啜りながら、感心した。
どうにも呑み食いが好きなんじゃな。つくるのも食わせるのも。
しかめ面でタルトを呑み下すジュベとかいう男に、さっぱりしたディアボロ·シトロンを勧めるジャンを眺めながら、マリィに促されるまま二杯目のお茶を貰う。
「ちょーっとォ!なぁにィ、その熱視線ン⁉そんな目で見られたら、アチシが焦げちゃうじゃなーい!!」
ジュベの隣で小指を立ててお茶を呑んでいたボン·クレーが、頓狂な声を上げてウィンクして来た。
カクはお茶を噴きかけて咳き込んだ。
「···何でワシがお前さんを焦がさにゃならんのじゃ」
「好·き·だ·か·ら、じゃないン?うふーん?」
「焦がすくらいなら燃すわい。ワシャ半端は好かん」
「まぁたまたン!ホント照れ屋さんねィん、鼻!」
「やかましいわ、馬面」
「うふん?イジメっこねィん、アンタ!」
「···頭がおかしくなりそうじゃ」