第14章 北の街のジュベ
「ジュベ、おやつ食べに行こう?」
ソマオールが、如何にも無造作に伸ばした黒髪の男の袖を引いた。
さっきから屋敷中にプンプンといい匂いが漂っていて、ソマオールのお腹はきゅうきゅう鳴きっぱなしだ。
「バタくさい食いもんはあまり好かねんだよな」
上等とは言えないがこざっぱりとした身なりの男が苦笑いした。
可愛いと言うのか、美しいと言うのか、整いながらも愛嬌があるその顔は、それでいてどこか素っ気ない独特な雰囲気がある。
「大勢でものを食うのも面倒くせえ。まあ食わせてくれるってんなら何でも喜んでご馳走になるがね」
「好き嫌いは駄目だよ」
「だからご馳走になるって言ったろ?ちゃんと話を聞け」
「聞いてるよ。ジュベはバタが嫌い」
「半端に聞いてんなあ。バタくさいのが嫌いなんだよ。バタじゃなくよ」
「バタは好きなの?」
「痛いとこ突いて来んな。よし。俺はバタは嫌いだ。でも、出されたものは美味しく頂く。わかったか?」
「わかった。嫌いだけど美味しいバタ!」
「うん、まあそれでいいや。お茶はテラスか?」
「ベンサムがいるよ!オカマデェアッシュッ!」
「オカマダッシュな。アイツァほんといいオカマだよ。訳ありは逃げ足が速いに越したこたない」
「ジュベも速い?」
「遅かないだろ。それも仕事の内だからなあ」
ジュベは頭を掻いて頷くと、ソマオールの手をとって歩き出した。
「ねえちゃんは相変わらず忙しいのか」
「忙しい。でも、新しい友達が出来て嬉しそう」
「山登りの?」
「んんうん。鼻」
「はい?」
「はいじゃないよ。はな」
「···鼻、ね。鼻···」
「変な鼻なの!でも何だか好きなの!」
「あん?姉ちゃんが?それともお前が?」
ジュベが面白げに聞くと、ソマオールはニカッと笑った。
「両方!アタシ、カクのお嫁さんになるの!」
「お前、俺の嫁さんになるんじゃなかったか?」
「ジュベはノスケがいるからダメっていった!」
「ああ、言ったな。俺にゃ可愛い山猫がいるから」
「ノスケってネコなの?」
「まぁな」
「ふぅん」
ソマオールはわかったような、わからないような顔で頷くと、ジュベの腕に抱き付いた。
「じゃ、ジュベはノスケがお嫁さんね。アタシはカクがお嫁さん!」
「···まあいいさ」
ジュベはソマオールの頭に手を置いて笑った。