第11章 丘の上のエンダ邸
ソマオール・エンダ。
目のぐりぐりした元気な少女だ。カクが海から釣り上げたラビュルトの年の離れた妹。
「変な鼻!」
命の恩人を前にいきなり指を突き立ててにかッと笑う様は如何にも子供らしくて面白い。
「何じゃ、元気そうじゃな」
足元にじゃれつくソマオールを抱き上げて、カクは屈託なく笑った。
その頭からキャップを奪って飛び降りたソマオールが、今度はラビュルトに飛び付く。
「ラビュ、おかえりッ」
大きな音を立てて頬にキスする妹をラビュルトは満面の笑みで抱き締めた。
「ただいま、ソマリー」
ラビュルトの実家は丘の天辺にある、わらわらと草木が陽気に繁る開けっ広げな庭に囲まれたどかんと大きな三階家だった。
「はあ・・・こら腕のいい庭師が入っとるな」
野放図に見えてきちんと手をかけられた瑞々しい庭木や花々を眺め、カクは感心した。
「そう?」
ソマオールを抱き上げたラビュルトが笑顔のままカクを見返る。
カクは手近に実ったレモンを手にとり、改めて辺りを見回して頷いた。
「気取った庭じゃないがしっかり目の行き届いとる。ワシャ好きじゃな。いい庭じゃ」
「ふふ、母さんが喜ぶわ。ありがとう、カク」
「お袋さんが手入れしとるんか」
驚いた。娼館のオーナーの妻に庭仕事とは、あまりそぐわしい感じがしないので意外だった。
「好きなの、土いじりが。裏には畑もあるのよ」
カクのキャップを被ったソマオールを下ろして、ラビュルトは穏やかに頷いた。膝に抱き付く妹の頭に片手をのせ、もう片手を目の上にかざして眩しげに海を臨む。
「変な鼻!」
再びカクを指差して、ケタケタと笑ったソマオールにカクは腕組みしてしかめ面をする。
「成る程姉妹じゃのう。よう似とる。鼻鼻くどいわ」
「似てる?そう?ホントに?」
海を眺めていたラビュルトがカクに視線を巡らせた。カクは肩をすくめて頷く。
「うむ。厭がっとる相手に無頓着にしつこいとこやら遠慮ない笑い方やら、よう似とる」
そう言われてラビュルトは、どことなく肩の荷が降りたような顔で笑った。
「まあそりゃね。姉妹だもの」
「ラビュ」
「なあに?ソマリー?」
せがむように足を揺さぶるソマオールの背中に手を添えて、ラビュルトが優しく返事する。
「街に行きたい!連れてって!」
「父さん母さんとお話がすんだらね」