第9章 二度目
人の目をこんなにも真っ直ぐ見る事など、実はあまりない。
ベッドに横たえたラビュルトを見下ろして、カクはその額にかかる白髪を掻き上げた。奥二重の涼しげな目が、じっとカクの目を見返して来る。
灰色の瞳を縁どる長い睫は、眉と同じく仄かに紅い。
「・・・カクは・・・」
ラビュルトが、目を弓なりに微笑ませてポツンと言った。
「何じゃ」
ホリゾンブルーのシャツの裾に手を潜らせながら聞き返すと、ラビュルトは積み重ねた枕の上で首を傾げた。
「カクは凄く目を見るね」
「そうじゃろうか」
「そうじゃわいな」
「ワシャ、ワシと話す気はないぞ」
額に口付けると、耳朶にラビュルトの長い指が触れた。乾いた温かい指先が耳朶を柔らかく揉む。
「お前さんとは目線が同じじゃからのう。立っとりゃ自然と目に目が入るんじゃ」
耳朶を弄ぶ手をとってその甲に口付け、カクはラビュルトの目にまた見入った。
「でなくとも見ずにゃいられん目じゃ」
「また甘やかす」
「正直なんじゃと言うとるじゃろうが。お前さんこそ物怖じせんな。ワシャ女の事はようわからんが、こうも見返して来る女にゃ会うた覚えがないわい」
「よくわからないんじゃ参考にならないじゃない」
「まあそうかの」
「でもわかったわ。カクもアタシも目を逸らさないから、マジマジ見合っちゃう訳だ」
真顔で納得する様が可愛くて、カクはフと口角を上げてラビュルトの滑らかに引き締まった背中へ腕を回した。
昼に確かめたばかりのラビュルトの輪郭が、しっくりと腕の中に収まる。
逆上せて夢中だった一度目とは明らかに違う自分を、カクは俯瞰するように捉えた。
興奮より愛おしさが勝って、目と耳と頭がよりラビュルトを意識している。
「ワシャ思うんじゃが」
「うん」
「目を逸らさんのは好き合うとるからじゃなかろうか」
「うん」
「ワシャお前さんを見飽きん」
「ホント?」
「今更世辞など言わんわい」