第8章 There is no place like home.
「・・・つくづく仕様のないヤツじゃ」
腰を抱き寄せて白い髪に顔を伏せると、薄荷が匂って鼻の奥がツンと痛くなった。
「ホントね。自分でもそう思う」
首に腕を回して答えながら、ラビュルトが耳元で楽しげに囁く。
温かく湿った夕飯の香りと胸のすく薄荷。
There is no place like home!
おうちへ帰ろう。
カクもうちに帰った。
踵を鳴らしたのはカクではないが。
「お前さん、魔法も使いよるんじゃな」
穏やかに呟いたカクに、ラビュルトはきょとんとして、それからにっこり笑って、キャップの庇の下の頬へキスを落とした。
「そうみたいね。怒るかと思ったカクが喜んでるもの。知らないうちに魔法を使っちゃったんだわ、アタシ」
「フ。調子のいい事を言いよる」
「アンタが甘やかすから、アタシ、何を言われてもほめられてるようにしか思えなくなっちゃったのよ」
「先が思いやられるのう・・・」
「ホントね」
大きく微笑んだラビュルトと額を重ねあう。
「お腹空いた?」
「そうじゃな」
「食べる?」
「そうしようかのう」
「・・・くすぐったいわよ。生肉は嫌いなんじゃなかった?」
「あら言葉の綾じゃ」
首をすくめたラビュルトを抱き上げる。
若葉の宿る煙った目を見下ろして、カクは口角を上げた。
「思い出したわい。ありゃオズの魔法使いじゃ」
「ふん?Somewhere over the rainbowでも唄って欲しいの?」
「いいのう。是非聴かせてくれ」
唇を重ねてカクはラビュルトの目を間近く覗き込んだ。
「ハリアーが唄えばより虹も近しかろう」
「・・・何っか、たらしよね、アンタ」
「ワシャ正直なだけじゃ」
長い足を踏み出してカクは寝室に入った。
「台所の床もオツじゃったが、今度はも少し腰を据えて頂こうかい」
「アタシなら玄関だっていいのよ」
ケロッと言うラビュルトに、カクは目の笑ったしかめ面をした。
「・・・先が思いやられるのう・・・・・・」