第29章 水が流れ出す
「ジンは何をも呪わない。下らない問答をしに砂漠を出る様なあなたじゃないだろう、ディディ。何が目的なの?モモ?」
ぎゅっと眉根を寄せて斜めに見上げて来たカヤンにディザーディアは一時目を眇めて、腕組みをした。
「アタシはピンクの駝鳥に言われてお前を引き取りに来たんだ」
「駝鳥?」
辺りに目を配りながら成り行きに耳をそばだてていたカクが、ハ?と目を瞬かせた。
「ピンクの駱駝の次はピンクの駝鳥か」
「いよいよボケて来ちゃったんじゃないのン、アンタ。駝鳥は喋んないわよぅ。走るの、鳥なんだから」
呆れ顔で言ったボン·クレーが自分の台詞に首を傾げる。
「あらン?鳥って走るんじゃなくて飛ぶんじゃなかったン?うン?そうよねィん、飛ぶのよねン、カク?」
「いや、お前さんは黙っとれ。話が散らかるばっかりじゃ」
「全くだ。面倒だからどこか人の寄り付かないところに片付いていろ。海の底に沈むとか火口のど真ん中に転げ落ちるとか流砂に巻き込まれるとか、おお、考えるだけで胸がすくわ。断捨離」
「うるっさいわ!先ずアンタが姥捨てられなさいよン!断捨離!」
「黙っとれっちゅうとろうが…」
言いかけてカクは口を噤んだ。
駝鳥。鳥。ピンクの?
思い当たるものがある。頭を掠めた名は大きくて厄介なものだ。
ラビュがこっちを見ている。近寄りかねているのがわかる。連れの妙な男をあしらいながら、ずっとカクを見ている。
カクはキャップの庇を深く下げた。
…ドフラミンゴ…。まさか。何故アレがこんなところに顔を出さにゃならんのじゃ。
ボン·クレーを見る。
誰にエンダを紹介しおった?
ボン·クレーがカクの視線に気付いた。何を感じたのか、気まずそうに目を反らす。
そんな視線のやり取りを見ていたディザーディアが、鼻を鳴らしてカヤンに向き直った。顎を上げて威圧的に一歩前に出る。
「駝鳥はオカマにお前の事を頼まれたと言っていた。ーお前はボン·クレーに売られたんだよ、カーミヤール」