第29章 水が流れ出す
「何ソレ!?何ソレ!ちっとも上手くないわよン!ババァがオヤジギャグなんて止めなさいよ!可哀想な目で見ちゃうわよ、ちょっと!?このアチシが!天敵のババァを!可哀想な目で!いいの!?いいわけ!?」
「腹が立つから止めろ」
「でしょ!?でっしょう!?ほらね!ほらね!!」
「…随分親しげじゃが、知り合いか?」
眉根を寄せて尋ねたカクに、ボン·クレーとディディは申し合わせたように厭ぁな顔をした。
「こんなモンと知り合うくらいなら地獄へ堕ちたがマシだわ」
「!!ばッ、そそそそんなんアチシの台詞だわよン!」
「ほう。そうか。なら堕ちたらいい。早く堕ちろよ。さあ堕ちろ」
「何よ、先ずアンタが堕ちなさいよ!したらアチシも堕ち……堕ち…、なくてもいいわね。アンタが行くならむしろ行きたくないわ。絶対行きたくないわ。あら?」
「だろう?全く同感だ。だからお前が行けよ。そしたらアタシは行かんですむ。万々歳だ」
「…アンタが言い出したんだからアンタが行きなさいよ」
「お前が横から割り込んだんだぞ。譲ってやるからとっととくたばれ」
「いいから!いいのよン!アチシこう見えてレディファーストなんだか…ぶがッ!だっはーッ!ぢょっど!?鼻っ柱に拳骨はやり過ぎぢゃない!?おお、いっだあぁーッ!!あッ!見なさいよ!鼻血!鼻血が出だぢゃない、信じらんない!アンダそれでも女なの!?実はババァじゃなくてジジィなんじゃないの!?だはーッ、いっだーッ!!」
「レディファーストが聞いて呆れるわ、この馬鹿者が!貴様砂漠でこのアタシに何度手を上げた!?紳士が女の顔を何往復も殴り付けるものかよ?大体レディファーストなんざ女を盾にしたり毒見に使う為の腐れ紳士の誤魔化しだ!よく覚えとけ、物識らず!」
「あらん?そう。いい事聞いたわァ。じゃ、これからアチシ、生涯レディファーストを貫いちゃう!座右の銘…は間に合ってるからァ、座左の銘くらいには据えちゃってもいいわねィん。やだ、ジェントルマンと利害が一致するなんて、ちょっといい気分じゃなー…がはッ!み、鳩尾に拳骨も止めなざいよッ!ゲホッゲホッ、アンダどんだげ野蛮なの!?せめて平手で突くとか叩くとか、それっくらいの遠慮してみなさいよ!アンタ拳骨開くと溶けてなくなっちゃう訳!?そういう作り!?変わった体質!?」
「殴るんだったら拳骨と決めておる」
