第3章 嬉しい。ありがとう。
「ワシとしちゃ、お前さんとはもう随分親しくなった気でおったが」
「へええ!ホント?」
素直に嬉しそうな顔をしたラビュルトに、カクは至って真面目に続ける。
「でなきゃここまで来とりゃせんわい」
「嫌いじゃない?」
テーブル越しにラビュルトが長い身体を伸ばして、整った顔を寄せてきた。
「好きじゃよ」
トネリコの閃く灰色の瞳を見返し、カクは苦笑いした。
「困ったもんじゃわい」
「何で困る事があるの?アタシもアンタが好きよ」
カクは隠元のスジとりを止めて、パンパンと手を打ち払った。ラビュルトから目を逸らし、窓の表を眩しげに見る。
「ますます困ったのう。ワシャこういうのは苦手じゃ」
「こういうのって、どういうの?」
ラビュルトの膝がテーブルにのって、紙袋が落ちた。色鮮やかな野菜や果実が板張りの床に散らばる。
「こういう事全部じゃ」
「わかんないってば。どういう事全部よ?」
カクの頬に手を添えたラビュルトが可笑しそうに笑った。
更に身を乗り出してテーブルの上に身体をのせ、カクのキャップを取り退けてその額に自分の額を重ねる。
海老や隠元がバラバラと落ちて行った。
「行儀の悪い女だわい」
白いシャツの脇の下に手を差し入れて、自分と同じ身丈の女を膝の上に抱き下ろしたカクは、口をへの字にして溜め息をついた。
「これも妹の恩じゃろうか?」
「違う。これはアタシの好意」
「・・・お前さん、やっぱり綺麗じゃな」
カクの言葉に、ラビュルトが大きな笑顔を浮かべる。
「ありがとう。カク。嬉しい」
カクは真顔で頷くと、首と背中に手を回してラビュルトを抱き締めた。
薄荷糖が匂い立って、唇を重ねれば、洋梨と葡萄の風味がした。