第26章 賽は投げられた
今のカクを見たら、長い付き合いの仕事仲間達は茶番だと笑うかも知れない。何のつもりか愛鳩の名を使って再びカクを呼び寄せようとしている男は下らないと言い捨てるだろう。
上着のかくしに忍ばせた手紙と、懐にあるラビュルトへの気持ち。
白いカラーの一輪花を見て、カクは口角を上げた。
誰に何をどう言われようと構わん。ワシャワシが今せにゃならん事をするだけじゃ。
色んな気持ち全てがカクなのだ。好み、拘り、喜怒哀楽、仕事、好きな女、この先への逡巡と選択。
ワシが何をせにゃならんかを決めるのはワシじゃ。
さんざめきが漏れる扉の前で、胡散臭げな顔をするドアマンと話すボン·クレーを眺め、カヤンとモモを見比べる。
流れ出した水は収束するまで止まらない。カヤンの言うように後はその道筋に乗るまでじゃ。そうしようと決めたからには乗り切らにゃならん。
この扉を開けたその先に何者が居るのか、何があるのか定かではない。
ワシは海賊ではないから乗り掛かった船とは言わん。
扉が開いてさんざめきが音量を増す。
賽は投げられた。
キャップの庇を上げ、カクは長い足を踏み出した。