第26章 賽は投げられた
「何でアチシが足止め食らうのよン!カクならまだしも!!」
ティアラを模した小さなトルコ石の髪飾りをちょんと載せた、パールブルーの絹のベビードレスのモモをしっかりと抱きかかえながら、ボン·クレーは鼻息荒く大股でホテルのロビーを行く。
「怒るな、ボン·クレー。大丈夫。凄く想定内だ。あまり予想通りでカクも僕も何とも思ってないから」
その横で小走りのカヤンがキリッと言う。
「何の問題もないよ」
「問題しかないわッ!何なの、何でアチシってば危うく摘み出されそうになっちゃってるのン!?アチシは招待客だっつの!ちゃんと!招待されてんの!アンタらなンかアチシとモモのオマケなんだからねン!?わかってるのン!?」
「わかってるよ」
「オカマのオマケよ!?ざまァみなさいよンだ!!」
「……自分をくさしとるぞ。深呼吸せい、ボン·クレー」
ボン·クレーとカヤンの後を追う格好で歩きながらカクが眉をひそめる。それを受けたカヤンが大きくひとつ頷いて、ボン·クレーを生真面目な顔で見上げた。
「そうだぞ、ボン·クレー。ほら吸って吸って吸って吸って吸って吸って吸って吸って……」
「…ぅぐわッはーッ!!!バ、バババババカッ!!!!いつ吐きゃいいのよ!?破裂するわ!!!」
「勝手に吐けばいいじゃないか。息くらい自力でしたらいいのに、しょうがないヤツだなあ…」
「アンタアチシを謀ったわね!?」
「謀るってこんな下らない事に使う言葉か?大袈裟だな」
「カヤン」
カクに声をかけられてカヤンが振り返った。
その小さな浅黒い顔を見て、カクはフッと笑う。
「緊張しとるのか?」
「…え?」
カヤンの小走りしていた足が弛んで止まった。
「緊張しとるんじゃな?」
「緊張なんか…」
先を行っていたボン·クレーも足を止めてカヤンを眺めている。
カヤンはぐっと顎を引いて二人を見返した。
「何で私が緊張しなきゃならないんだ?変な事言わないでよ」
「そうか。そら悪かった」
口角を上げたカクがカヤンの頭に手を載せて歩き出す。
「バッカねィん。誰も不味いアンタを取って食いやしないわって!ビクビクすんじゃないわよーう」
モモの髪を撫でつけながらボン·クレーは口をへの字にした。
「大体ねィん、嫌々だってもアンタアチシの連れなのよン?オカマの連れに誰が手出し出来るかっつの」