第55章 ぼくだって甘えたい… 一松
顔が熱くなるけど、精一杯声を振り絞る。
「……い、いってらっしゃい…待ってるから」
「っ!!」
(言えた…!)
ごめんとありがとうは出来なかったけど、いってらっしゃいは出来た。
いってらっしゃいって言っただけなのに、主の顔が嬉しそうにぱあっと明るくなった。
「ありがとう!ねぇ、一松くん…」
「……なに?」
な、なんかものすごく見られている。
「まだ酔ってたりする?」
「は?」
「うーん、質問を変えるね。昨日、お店出てから眠るまでの会話覚えてる?」
「…覚えてないけど」
そっかとつぶやくと、おれに耳打ちしてきた。
「また昨日みたいに、沢山甘えてもいいんだよ?」
「はぁっ!?お、おれ昨日何したの!?」
「ふふっ、なかなか可愛かったかな?」
「なっ!!」
—ちゅっ—
「ーーーっ!?」
「じゃあねっ」
主はうろたえるおれにキスをして出て行った。
(不意打ちとか…ずるいし)
ドキドキと二日酔いで頭がグルグルする。
たまらずボフンと主の香りが残るソファーにダイブした。
(まさか…夢だと思ってた事が現実だったなんて…ない…よな?)
「……」
(二日酔い治ったら、十四松の素振りでも手伝ってやるか…)
おれはソファーに丸まり、大好きな主の甘い残り香に包まれながら再び眠りについた。
・・・
次に見た夢はF6のおれと主が学園生活を送る、王道ラブコメのようでそうじゃない、よく分かんない夢だった…。
よく分かんなかったけど、シアワセな夢だった。
うん、さすがにコレは夢だろう。
猫になった夢については、この先いつまでも謎が解けないままだった。