第41章 番外編 F6 十四松先生と二重奏を コーダ
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「答辞。卒業生代表、松野おそ松」
「はい」
卒業生、在校生、保護者、教職員と来賓の皆さん——みんなの熱い視線を一身に浴びて、おそ松くんが壇上に上がった。
おそ松くんは丁寧にお辞儀をし、澄みきった青空のような美しい声で答辞を述べる。
「校庭の桜の蕾も膨らみ始め、春の香りが漂い始めました。
それは、まるで年頃のうら若き処女(おとめ)が、恋をし、女体という蕾を開花させるように、私達に春を告げようとしています。
セックスを描いた浮世絵『春画』だって、春の画と書くくらいですから、日本人にとって春というものは出会いと別れ、処女とビッチ、恋愛とセックス、様々な卑猥な物を連想させるのかもしれません。
そしてとうとう、私達が、ほにゃらら高校を卒業する日がやってきました。
相変わらず童貞を卒業出来ない者もおりますが、卒業はきっと誰にでもやってきます。それは、十年後かもしれないし、明日かもしれない」
ここでおそ松くんは深く息を吸い、高らかにその美声を体育館に響かせた。
「だからこそ、私達はこう言いたい!童貞とは男の誉れ。心の底から愛する女性に出会うまで操を守り、最愛の人に春を告げるベルを鳴らしてもらいたいと思う、その心意気。それは、実に美しく尊いものである…と!」
体育館中からすすり泣く声が聴こえてくる。
(うん、なぜかいつも通り、みんなの心を掴んでいるね…)
「そして今日、私達は学び舎から巣立ちます。私達のために、このような素晴らしい式典を催してくださった先生方、在校生の皆さま、ありがとうございました。
来賓の皆さま、保護者の皆さま、私たちのために足をお運びいただきましたこと、衷心よりお礼申し上げます。
さて…こんな冷える体育館で、退屈な話を聞き続け、さぞうんざりしている事でしょう。
そこで、私達からささやかながら贈り物を皆さまにご用意しました」
おそ松くんは顔を上げ、爽やかジャスティススマイルをみんなに振りまくと、急に壇上で制服を脱ぎ始めた。