第39章 ※番外編 F6 十四松先生と二重奏を 第二楽章
二人肩を並べ歩いているけれど、一松くんは無表情で下を向いている。
「ねぇ一松くん」
「…なんだ?」
話しかければ一応返事はしてくれるみたいだ。
「わたしね、楽器ってすごいなって思ったよ」
「何がすごいんだ?」
「えっとね、松野先生の受け売りだけど、楽器は内面を映し出す鏡なんだって。だから、自分に嘘ついているから音が出なくなったんだって言われて…」
「じゃあ、素直になったから音が出たと言うのか?」
ジットリとした目つきで見つめられる。
「そ、そうなのかも…」
「そうか。よかったな」
そう言うと、プイッと顔を逸らす一松くん。
「今日の曲も、すごくいい曲だったな」
「そうだよね!先生って本当にすごいなぁ!!」
「あんなの…ずるい」
「え?」
聞こえなかったので聞き直したけれど、一松くんがそれ以上答えることは無かった。
帰り道、一松くんはほとんど無口で俯いたままだった。