第38章 ※番外編 F6 十四松先生と二重奏を 第一楽章
俯くわたしを、一松くんは無表情でじっと見ている。
すると、
「…実は、忘れ物なんてウソだ」
「え…?」
一松くんは、そっとわたしの手を握りしめてきた。
「あの…一松くん…?」
「居残りしていたお前が気になり、一人で戻ってきた。そしたら、二人の最高な演奏が聴こえてきて…」
一松くんは、手を繋いだまま立ち止まった。
彼の瞳にわたしが映っている。
「すこし、妬いた」
「っ!!」
紫の王子様が、頬を染めながらわたしの手を握りしめている。
信じられない状況に思考が追いつかない。
「あ、あの…」
「決めた」
普段あまり話さないのに、今の一松くんはすごくおしゃべりだ。
「おれが、あいつからお前を守る」
「へっ…?」
「今日からおれは、お前だけのナイトだ!」
(ええええーーっ!?)
わたしと松野先生の二重奏に一松くんも加わり、まさかの三重奏となった瞬間だった。