第78章 ※おまけ ありがとうを君に
あつしくんの場合
2/14ねぇ…。
この日を意識しない男なんているのかな?
少なくとも、僕の周りにはいないね。
松野の彼女は確かケーキ屋だったっけ?
さぞ豪勢な手作りチョコを貰うんだろうな。
ま、僕にはそんなのどうでもいいか。
考えた所で貰えるわけじゃなし。
それに…
「あつしくん、迎えに来てくれてありがとう!」
「さ、乗って」
僕にも彼女が出来たからさ。
やっと出会えた素敵な彼女、主。
メイクはナチュラル、服装も至ってシンプル。
だけど、その飾らない感じが堪らなく好きなんだ。
主は助手席に乗り込むと、膝の上にバッグと少し大きなカゴを乗せている。
いや、今日はバレンタインだけどさ…。
まさか、そのカゴの中全部チョコってわけではないよね?
そんなに食べたら血液がカカオになってしまう。
と思い、なんとなく聞いてみた。
「どうしたの?その荷物」
「あのね、張り切ってお弁当作っちゃった」
意表を突かれ、思わずプッと吹き出してしまった。
キョトンとする主。
「ねぇ…お弁当の存在により、ドライブ先が大自然に囲まれてる系に限定しちゃうんだけど」
「えっ!?嫌だった?」
「ううん、キミって相変わらず可愛いなぁって」
僕のそんな些細な一言ですら、いちいち頬を赤らめるキミは、天然な小悪魔と言ったところだ。
そうやって、僕のハートに火をつけちゃうんだから。
さて、どうしよう?
自然があって、オシャレで、キミを喜ばせられる場所…か。
「そうだねぇ——じゃあ…縦浜にでも行って、山上公園で海を見ながらお弁当食べようか?」
僕が提案すると、嬉しそうに目を輝かせ頷いた。
「決まりだね」
頭を抱き寄せ軽く唇を重ねた拍子に、僕がプレゼントした香水がふわりと鼻をくすぐった。
可憐な花を思わせる、キミの身体を纏うのに相応しい、甘く爽やかな香り。
主に出会うまでに、沢山の女の子とデートを重ねてよかった。
だって、全部がキミを喜ばせる練習台になってくれたから。
主がシートベルトを締めたのを確認し、僕はアクセルを踏み込んだ。