第13章 話す
「…それで、目の前のドアが開いてね。無理やり降ろされそうになって…」
震える手をぎゅっと握った。
「な、なんとか…手すりに捕まって抵抗…したら、近くに居た駅員さんが助けてくれた」
「はぁー」っと皆のため息が聞こえる。
「…そのまま…駅長室に行って、警察が来て…話しするんだけど…『何で抵抗しなかった?』とか『何で声出さなかった?』とか、い、言われて…。『あんな時間に、スカートなんかで乗るから』とか『中学生のくせにマセてる』とか…。か、体つきなんてどうにもならないのに…そんな風に言われて…なんか、嫌な思いしたのは私のはずなのに、私が悪いって責められてるみたいで…。もう、嫌になっちゃってね。…それで、電車に乗れなくなった」
それに、この事がきっかけで私は人の視線を気にするようになった。
触られた事も、駅長室で言われた事も嫌だったけど、構内での周りからの好奇な目も嫌だった。
私を触った人が駅員さんに素直に従わず、「嫌がらなかった」「拒否しなかった」と叫んで暴れたので、その場に居た人達の視線に晒されてしまったのだ。
それで、人前に出る事が出来なくて、1ヶ月程、学校も休みがちになってしまった。
外に出られなくて、
なんとか学校に行っても教室に入るのが不安で…。
そんなだから、発表会なんて当然無理でピアノも辞めた。
まとわりつく空気が重い。
ここまでは話さなくてもいいよね…。
もう、これでいいよね。
「で、でもっ。前は全然乗れなかったの。誰かと一緒だったら乗れるようになったから進歩したの」
まくし立てるように早口で言った。
顔はあげられない。
けど、なるべく皆に重荷と思われないようにしたい…。
「変な話し聞かせてごめんね。…わ、私、洗濯物干してくる」
そう言って、逃げるように立ち去った。