第60章 留まる
うつ向いたまま、何も話さない私を凛が抱き締めた。
「り、凛…。あの…」
『黙って』と言わんばかりに腕に力が加わる。
そのまま潰されてしまうんじゃないかと思う様な彼らしくないその抱擁は、
苦しい。
ちょっと痛い。
でも、凛はもっと痛いんだ…。
「あの…凛、部屋…で…」
私の呟きに力が緩んだ。
「ここ、エントランスだから。ここじゃなくて中で話したらダメかな?ちゃんと話すから…。凛の話しも聞くから…。だから…」
泣くのはずるい…。
そう思うのに、目には涙が溜まる。
言葉につまると、凛が身体を離して私の頭をあやすようにポンポンと叩いた。
「凛…」
見上げると、眉を下げて首を振っている。
‐‐‐‐‐‐‐
今日はやめとこう。
WCが終わったら時間欲しい。
‐‐‐‐‐‐‐
「うん…」
差し出された画面に頷くことしか出来なかった。
大きな手でクイッと顔を上げられて、そのまま指が目元を撫でる。
『泣かないで』
そう言われているのがわかる。
「ごめんなさい…」
そう呟くと、頬にちゅっと唇が触れて凛が微笑んだ。
怒られたって、
嫌われたって、
悪いのは私だから仕方ないのに…。
それでも、
『また、明日』
そう手を振って、いつも通りに去っていく凛を見送った。