第59章 佇む
いつもはさりげなく隣に並んでいるのに今日は違う。自分から側に寄ろうともしたけど、凛の足が早くて無理だった。
コガとも並んで歩きたくない様で、ポケットに手を突っ込んで、皆の列の中をスタスタと歩いていく。
きっと、自分の気持ちを知られたくないんだろう…。
諦めて、いつもと同じように最後尾を歩いた。
「陽向は、もう大丈夫?」
隣に並ぶコガの言葉に頷く。
正直、体調が戻ったわけではないが、試合後の安堵感が大きい。
来たときの様にはならないだろう…。
「試合前に心配かけてごめんね」
「大丈夫だけどさー。何かあったのー?」
「…うんと…」
言い淀んでしまう。
何を答えていいのか分からない。
凛じゃないから話せるという訳でもない。
「話したく無いならいいんだけどさー。水戸部はトイレから戻って来たら機嫌悪いし。喧嘩でもしたの?」
「喧嘩はしてないけど…」
「そっか。ならいいやー」
そう言ったきりコガは黙って歩きだした。
ポンポンと慰めるように私の肩を二度と叩いて…。
前を歩く凛の背中を見つめながら、火神の家に向かった。