第56章 崩れる
頭がフラフラする。
寝不足が身体に響いている上に食欲も無くて、食事を取らずに出て来てしまった。
眉を下げた凛に覗き込まれて、
‐‐‐‐‐‐
寝れなかったの?
大丈夫?
‐‐‐‐‐‐
と、差し出された画面。
それに「大丈夫」と答えた。
でも…。
試合会場へ向かう電車内は、バッシュが壊れたという黒子、火神と、買い出しを頼んだ降旗、福田、河原が居ないので二年だけ。
「間に合うのか?」
「時間は大丈夫でしょ?私達の試合は夕方からだし」
そんな会話が、耳を通り抜けていく。
ただでさえ、万全でない体調なのに、ちらほらと人が増える電車内。
最近、平気だったけど久しぶりにダメかも知れない…。
皆の言葉に甘えて座らせてもらってるのに…。
自分の呼吸が徐々に早くなっていくのが分かる。
平静に。ゆっくり。大丈夫。
そう、思えば思う程、
込み上げる不安感に押し潰されそうで、
隣に座る凛の腕にぎゅーっとしがみついた。
突然の事に凛の肩が跳ねる。
「おい、ちょっ…陽向」
日向の声も聞こえる。
けど、今は無理。もう…無理。
人前なのはわかってる。
でも、許して欲しい。
顔を伏せて、更に強く凛の腕にすがりついた。
「お前、車内…」
「日向待て。陽向、どうした?大丈夫か?」
伊月の声に、
嫌だ嫌だと駄々をこねるように無言で首を振った。
呼吸が浅くなる。
更に早くなる。
息が…苦しい。
苦しい…。
そわそわしたり、立ちすくむ事はあっても、ここまで酷く取り乱す姿をお兄ちゃん達に以外に見せた事はない。
凛も、焦っているのがわかる。
(ごめんなさい)
(ごめんなさい)
頭の中がぐしゃぐしゃに崩れていく。
どんどん増していく不安感に埋め尽くされそうになっていると…
「碧、大丈夫よ。怖い事なんかないわよ」
と、リコが背中を擦ってくれた。
「ゆっくり吐いて。大丈夫だから…。水戸部くんも落ち着いて。碧の手握ってあげて。ただの過呼吸よ。まだ軽いからすぐ落ち着くわ」
しばらく二人に宥めれて、
私はようやく落ち着いた。
「このまま乗ってられる?大丈夫?」
リコの問いかけにコクンと頷く。
「あの…ごめんなさい」
私の謝罪に、皆が首を振った。