第53章 揺さぶる
「火神、何で?」
「オレは、タツヤと…。ってか、『何で?』はコッチっすよ。どこ行ってたんすか?先輩達、探してた…ですよ。えっ?えっ!?泣いてんすか?大丈夫ですか?」
焦り出した火神にコクンと頷いた。
「水戸部先輩、呼んでくるっす」
そう言う、火神の服を掴む。
今は凛に会わす顔が無い。
…ううん。会いたい…。
会いたいんだけど、会えない…。
無言で首を振った。
困った様に頭を掻く火神。
「火神、戻っていいよ」
「えっ?でも…」
「大丈夫。落ち着いたら行くから。私に会ったって、人混みに酔って風に当たってるって言っといてもらっていいかな?」
「いいっすけど…。たぶん…水戸部先輩、来ますよ」
うん…。
そうだよね。
凛なら、観戦を放り出して私の所に来る気がする。
でも…
「もし、凛が席を立とうとしたら止めてもらえないかな?」
少し考える間が空いて、「わかったっす」と火神が返事をした。
「アレックスがついてるって伝えとくっす」
「ごめんなさい。嘘つかせて…」
「大丈夫っす。じゃあ!」
そう笑って、走って行く火神の背中を見送った。