第45章 動き出す
試合は引き分けに終った。
会場内に響く拍手の音。
コートの上の選手達はWCで決着をつけようと互いに約束を交わしていた。
ベンチに戻ってくる皆の顔はすごく晴れやか。
片付けを終え、フロアから出るときにも自然と交わされる選手同士の握手。
ふと、目が合った清志くん。こっちに近づいてくる。
隣に並ぶ凛に「先に行ってて」と声をかけて、私も清志くんに近づいた。
「引き分けだな」
そう言う清志くんの顔もやはり晴れやか。
「そうだね」
「行くぞWC。俺も、お前も」
「うん」
返事をすると、私の頭をぐしゃぐしゃと撫でて「じゃーな」と笑った。
乱された髪を直しながら私も「またね」と返す。
清志くんと別れて控え室へと足を向けると少し先に見つけたのは、「先に行ってて」と伝えた凛の姿。
「待っててくれたの?」
少し眉を下げて頷く彼。
長い腕を伸ばして、頭を撫でてくれた。
行為自体は先程の清志くんと同じなのに、
凛がするとこんなに暖かくてドキドキするのは何故だろう?
『行こうか?』
そう言いたげに目線を動かす凛に頷いて、
歩き出す彼の隣に並ぶ。
こうやって二人だけの時間は、やっぱり特別で『もう少し…』なんて欲が出てしまうんだけど…
さほど歩かずとも、控え室の扉の前にたどり着いた。
(不謹慎だけど…名残惜しいのは私だけかな?)
ちょっとだけ複数な胸中で、凛が開けてくれた扉をくぐる。
皆が帰宅の準備を進める室内。
輪から少し離れた所に座る木吉の腕をつついた。
「大丈夫?」
問いかけと共に指差したのは彼の膝。
皆に知られない様にと繕っている木吉に配慮して、小声で声をかけたつもりだ。
「黙っててくれ」
木吉も小声で私に言う。
「でも…」
「頼む」
「だけど…」
「碧、頼む」
木吉の目は真剣だ。
それ以上は何も言えなかった。
きっと、木吉の膝の事はリコも気づいている。
ううん。リコだけじゃない、2年生は皆…。
でも、何も言わないし、言えない。
ましてや次の試合は霧崎第一。
本当は木吉に『出るな』と言いたいのに誰も言えないんだ…。
それだけ、真っ直ぐな思いが木吉の背中から感じ取れてしまうから。
「わかった」
その場を離れて、迷子になってしまった二号を探しに行く皆に続いた。