第38章 行き交う 【side宮地】
…水戸部。
「何だよ」
「離せよ」
無言だが、なんだか癪にさわる態度。
睨みつけたら引くかと思ったが、意外と怯む様子はない。
碧の肩に覆うようにタオルをかけて、俺の腕を掴む手に少し力をこめる。
『離せ』
無言の水戸部がそう言っているのは誰の目から見てもあきらかだ。
けど、何なんだよ。
ってか、喋れよ。轢くぞ。
口を挟んだのは誠凛の監督だった。
「宮地さん、碧の下着、少し見えてるんで、水戸部くんはたぶんそれで…」
コクリと水戸部が頷く。
あ"?下着?
改めてまわりを見れば…。
…あっ‼
やべぇ、ここ男ばっかじゃねぇか。
「あっ、ワリィ」
手を離すと、俺の顔色を伺うように碧が口を開く。
「だ、大丈夫。気にしないで…」
(なぁ、そんな顔すんなよ)
「お前な、下手に隠すな。長引く方が迷惑かけるだろーが」
「うん。ごめんなさい…」
(だから、そんな顔…泣きそうな顔すんなって)
いつもみたいに頭を撫でようと腕を伸ばした。
でも…
目の前では、
「これ、ありがとう」
と碧が水戸部にタオルを渡していて、
碧の頭には既に水戸部の手が乗っていて、
…行き場を無くした俺の手は空を切る。
(なっ、何…なんだよ…)
誠凛の監督と歩いていく、碧の背中を眺めていた。