第36章 伏せる
「水戸部の声、聞いたことないんでしょ?彼氏が喋らないとか嫌じゃない?電話も出来ないじゃん」
首を傾げた私を見て、梓ちゃんがもう一度聞いた。
そうゆう事か…
「確かに電話は出来ないけど、でも、嫌だって思った事は無いよ」
そう素直に答えた。
「どっちかがもどかしい思いをするなら別だけど、私達はそうでもないかな?私もおしゃべりな方でもないし…。それに、私にとって、凛の声が聞こえるかどうかはそんなに重要じゃないから…。喋れないならそれを求めるのは間違いだし、たとえ喋らない方でも嫌な事を強制させるつもりはないよ」
目の前の彼女は先程に増して不思議そうな顔をしている。
「喋らない分、表情豊かだから困ったりしてないよ。私はあのままの凛で充分。いつも助けてもらってる」
彼女に笑いかけると、ため息混じりに肩が下がる。
「なんか、のろけられた気分…」
「ごめん。そんな…つもりじゃ…」
「仲良しで羨ましー!!」
気がつけば校門で、そのまま揃って教室へ向かった。
廊下を歩きながら「もうすぐ夏休みだね」と梓ちゃんが呟いた。