第32章 聞かれる
「聞きたい事があるんすけどー」
「ちょっとすいませーん」と角の席に座る伊月に断りを入れながら、ドカッと私のナナメ横に座った高尾くん。
まさか自分に話し掛けられるとは思わず固まった。
「大丈夫っすかー?」
高尾くんが目の前で手のひらを左右に振っている。
「ちょっと待ってやってくれ」と伊月の声が聞こえて、
凛が背中をさすってくれた。
『落ち着いて』と言われている。
フリーズ状態をなんとか解除して、詰まった様に閉じた喉から声を絞り出した。
「ごめんなさい。だ、だ、大丈夫です」
「大丈夫じゃ無さそーっすけど」
まるで笑い袋の様にケタケタ笑う目の前の彼。
このまま放っておくわけにもいかず、
「す、すみません…。聞きたい事って…」
と問いかければ、その笑い声がピタリと止んだ。
「ここで話していいんすかねー」
なんて、急に意味深な事を言われ、ハテナを顔に浮かべる。
そんな私に、高尾くんが耳打ちの仕草でチョイチョイと手招きをして、
そうされたので、素直に近づこうとすれば、
腕を掴んで、凛に動きをとめられた。
『不用意に近づくな』という事だろうか。
そんなに心配しなくても大丈夫だと思うんだけど…。
「水戸部、あのさー。いくらなんでも…」
コガの呆れた声と周りの苦笑いに高尾くんも察したらしい…。
「まぁ、いいっすわ。マネージャーさん、宮地さんとどうゆう関係っすか?」
「えっ?」
「だから、宮地さん。うちの8番。知り合いなんでしょ?」
突然出た他校生の、
しかも先程まで対戦していた相手校のメンバーの名前に、テーブル中の視線が自分に向く。
「し、知り合いというか…従兄です」
素直に答えた。
別に隠す事じゃないし、やましい事だってない。
皆が「えー!」と言う中、
高尾くんは、
「本当っすか?宮地さん見てるとそんな感じじゃなかったけどな」と首を傾げ、
「元カノか何かかと思いました」
そう呟く。
その言葉に凛が不安そうな顔をする。
「ち、違います。本当に清志くんは従兄。本人か弟の裕ちゃんに聞いてみて下さい。兄弟でバスケ部に居ますよね?」
彼の疑問に私が答えると、
「裕ちゃんって…」とまたケタケタ笑い出した。
でも、私のその呼び方に従兄である事を納得したらしい。
「失礼しましたー」と戻っていった。