第32章 聞かれる
王者との二試合が終わって、無事に決勝リーグ進出が決まった。
試合終了後、反対側のベンチから視線を感じて、そちらを向くと視線の主と目が合う。
清志くん…
なんだか気まずくて、下を向いた。
「どうかしましたか?」
突然黒子が現れて、いつもの様に身体が跳ねる。
私の様子を気にかけてくれたであろう黒子は、「陽向さん。またですか…。そろそろ馴れて下さい」と少し呆れた顔をして立ち去った。
その背中に「ごめんなさい」と頭を下げていると、視線は逸れていて…。
勝てたのに胸中が複雑なのは何故だろう…。
なんとなく、清志くんに悪いことをしてしまったような、そんな気がして…。
でも、私は誠凛のマネージャーだし、
勝ち負けのつくスポーツなんだから、仕方の無いこと。
そうは思うけれど…
頭の中のモヤモヤを首を横に振ることで振り払って、片付けを続けた。
ベンチの片付けが終わり、控え室の前。
「帰るわよー」
リコが扉を空けると、皆がゾンビ化している。
「大丈夫?」
「俺らはなんとかなっても、火神が無理だ」
日向が言う。
「いつまでもここにいられないから、とりあえず、どっかここから一番近い店に入ろうか?」
リコの提案で、のそのそと皆が動きはじめた。
会場を出て、凛の隣に並ぶ。
「身体、大丈夫?」と聞けば、少し眉を下げて笑った。
あんまり大丈夫じゃないらしい。
リベンジ出来てよかったね
そんな思いを込めて、凛の袖をちょっとだけ摘まんだ。