第29章 浮かぶ
初戦の日。
若干、電車内でソワソワはしたものの、凛が側に居てくれたので無事に会場に着く事ができた。
もう、これくらいの距離なら大丈夫。
そう心の中で呟いていると、
「あの…」
突然、目の前に黒子が現れる。
「キャッ」
例によってと言うべきか…
驚いて小さく悲鳴をあげて、隣にいた凛にしがみついた。
「いい加減、慣れて下さい。僕だって傷つきます」
ポーカーフェイスで抗議する黒子。
「ごめんなさい」
凛から腕を離して頭を下げて謝れば、
「どっちが先輩かわかんねーぞ…です」
といつかの逆のパターンで火神に突っ込まれた。
思い出して、つい笑みが溢れる。
「今日は大丈夫でしたね。良かったです」
黒子が言う。
「陽向さんは、マネージャー業は誰でもできると言いましたが、マネージャーだってチームメイトです。誰でも良いわけではありません。それに、試合中、信頼しているマネージャーの応援は心強いです」
相変わらず淡々としているが、黒子の目は真剣だ。
「だから、一緒に来られて良かったです。ありがとうございます」
そう言って、ペコっと頭を下げた。
黒子の話しを聞いていたであろう、バスケ部の皆が振り向いて頷く。
自分もチームメートだと言われた事が、
こんな、役立たずでも必要だと言われた事が、
そして、信頼していると言ってもらえた事が、
本当に嬉しくて…
泣きそうになって、でも『泣くもんか』と堪えて、
「こちらこそ、ありがとうございます」と私も頭を下げた。
顔をあげると皆の笑顔が見える。
「さぁ、初戦だ。気合い入れて行くぞ‼」
日向の掛け声に、皆で「おう」と返事をして、会場に足を踏み入れた。