第6章 Sixth sense
「何ぞ?
今更御預けは無しじゃ。」
少し不服そうな顔をする豊久を見上げて私は言った。
「一つだけ……お願いがあるの。」
「願い……?」
目を瞬かせながらちゃんと待ってくれる豊久が愛おしくて堪らない。
だから……。
「絶対に……死なないで。」
真っ直ぐに見上げる私の額を、豊久の大きな手が前髪を掻き上げるように撫でる。
いつも私の頭を撫でていた時とは違う力強さに豊久の想いが伝わって来るような気がした。
「俺(おい)は只の戦餓鬼。
どうせいこうせいする智も無くば才も無か。
只の死に損ないぞ。
じゃっどん、お前(まあ)が『死ぬな』と言うなら
飛んでん跳ねでん何でんするど。
だからお前(まあ)もその身体……
俺(おい)に捧げる覚悟を決めい。」
私を説き伏せるように低く告げてくれた豊久。
もう充分だ。
そして私は小さく頷いてからそっと目を閉じた。
怖くなんて無い………ううん、やっぱり少し怖い。
だけど私だって豊久が欲しい。
まさか自分の『初めて』を戦国武将、島津豊久に捧げる事になるなんて……
これって……『運命の人』に出会えたって思っていいのかな?
そんな事を考えながら身体を強張らせていると
「……力を抜けい。」
そう言った豊久は私の額に口付ける。
その優しい感触に、心も身体もじんわりと緩んでいく。
「ん……良か。」
ふわりと微笑んだ豊久は私の胸元に顔を埋め独り言のように呟いた。
「はあ……ようやっとの全部に触れられる。
まっこと俺(おい)は幸せもんだわ。」