第6章 Sixth sense
「…………ん。」
廃城に戻って以来一睡もしていなかったせいか、流石にウトウトしてしまったらしい。
身体に感じた僅かな刺激に目を覚ますと、優しい目をした豊久が私の頭を撫でていた。
「……もじょ(可愛い)かのう。」
「え……?」
「やはりはもじょ(可愛い)か。」
何を言っているのかは分からなかったけど、何を言いたいのかは何となく分かった。
「豊久ぁ……」
だから私は涙を滲ませながらも、にっこりと笑って見せた。
豊久が目を開けた時、私は絶対に笑っていなければいけないと思ったから。
頭を撫でていた手がゆっくりと下りていき、豊久の指先が今だ私の胸元に残る紅い痕を確かめるように撫ぞる。
「こん疵………痛むか?」
悲痛に眉をひそめる豊久を目にして、私は大きく首を振った。
「ううん。痛くないよ。
全然痛くない。」
「じゃっどん、お前(まあ)のここは傷付いちょる。
俺(おい)には血が噴き出しちょる様に見える。」
豊久の大きな手に左胸を優しく擦られて、今度は私が悲痛に顔を歪めてしまう。
傷付いたのは豊久なのに……
血を流したのは豊久の方なのに……
どうしよう……もう、止まれない。
「じゃあ………
この傷は………豊久が塞いで。」
私はそう囁いて、豊久の唇に自分の唇をそっと重ねた。