第6章 Sixth sense
そして私は既に荷車に乗り込んで、首に巻いたマフラーを大切そうに撫でている飛行服の男性へ近付いた。
きっとこの人が菅野直に間違いない。
「あの………」
私がそっと声を掛けると
「ああンッ?」
彼は鋭い目付きで睨み付けてくる。
こういう仕草を見てサン・ジェルミさんは「凶悪な顔をした日本人」って表現したのかな。
そう思い付いて少し笑ってしまいそうになったけど、私は彼に向かって深々と頭を下げて言った。
「助けて下さって本当にありがとうございました。」
「ああ……拐われたってのは手前ェか。
手荒な手段で悪かったなァ。」
「いいえ、とんでもない!
あの時は助かりました。
本当に菅野さんには感謝しています。」
「手前ェ、何で俺の名前………」
菅野直は微笑みながらお礼を伝える私の顔をじっと見てからニヤリと笑う。
「……中々の別嬪じゃねえか、手前ェ。」
「え?」
ずいと身を寄せて来た彼に驚いて私が少し後退ると
「オイオイ!
お前にはハニーがいるんだろォ?」
ブッチさんが私と菅野直の間に割り込んで来た。
「別嬪だって褒めただけだろうがッ!
大体ハニーって何なんだよ、コノヤロウ!」
「俺らの国では愛してる人をハニーって呼ぶんだ。
お前、『イイナズケ』を待たせてるって言ってたよなァ?」
「へー、ボリビアではハニーって言うのか。
イイねえ……あいつに会ったらそう呼んでやるか。」
菅野直はそう言って何故かまたマフラーを撫でた。
「ボリビア……?
えっと……ブッチさんとキッドさんはアメリ……」
不思議に思って問い掛けた私の口を背後からキッドさんが塞ぎ、そして耳元で囁いた。
「お嬢さん、それはトップシークレットだ。
俺らがアメリカ人だとバレたらアイツに蹴られちまうんだよ。」
あ、そっか……。
太平洋戦争真っ只中から来た菅野直にしてみれば、アメリカは憎むべき敵以外の何者でも無いよね。
本気で怯えているみたいなキッドさんとブッチさんの様子に私は笑ってしまった。
「分かりました。
絶対秘密にしますね。」
「やれやれ………助かるぜ。」
ブッチさんもニヤリと笑って私にウインクをする。