第5章 Burning quintet
信長様は幼子をあやすように私の背中をポンポンと優しく叩いてくれた。
そして私が少し落ち着くのを見計らってから低い声で囁く。
「良し。逃げるぞ。」
「逃げるって………?」
目前の焔の向こうでは豊久と土方歳三が戦っている。
出入口はその先にしか無い筈なのに……。
私が不安さを顕にすると、信長様がくいと顎で背後を示した。
そこには明かり取りの天窓から垂れる縄梯子がある。
あ………あそこから入って来たんだ。
燃え盛る焔に気を取られて全然気付かなかった。
「さ……急げ、。」
そう言って信長様が私の手を引いてくれたけれど……
「でも、豊久と与一さんがまだ……」
「これはお豊(トヨ)が決めた事じゃ!」
私の躊躇う言葉を遮って信長様の鋭い視線と声に射抜かれる。
「が此処に居ってはお豊(トヨ)は無心で戦い抜けん。
どうしてもお前の存在を……
お前の無事を気にして仕舞うのだ。
を此処から早々に救い出せ…と
これは総大将が決めた事なのだ。」
そう言う信長様の瞳にも苦渋の色が見て取れる。
そうだ、私は豊久の足枷になってしまう事が一番嫌なんだ。
こくりと喉を鳴らし、私は大きく頷いた。
「……分かりました。」