第5章 Burning quintet
あの人が………土方歳三。
漆黒の髪に洋装の軍服を纏い、腰には二本差し。
あれが土方歳三の愛刀として有名な和泉守兼定?
私はサン・ジェルミさんと入った部屋の扉を僅かに開くと、その垣間見た姿に息を飲んだ。
幕末を語る上で欠かせない偉人を目の当たりにして、こんな状況でありながら興奮を抑え切れない。
史実通りの美丈夫で、凛々しい立ち姿には気品すら感じる。
たけどその目はどこまでも暗い。
感情の全く読めない澱んだ視線が、じっとりと豊久に向けられていた。
「島津十字……
その家紋、決して忘れた事は無い。」
土方歳三の絞り出すような呟きが聞こえる。
「俺は新撰組……土方歳三義豊。
貴様が島津豊久だな?」
「おう。
正しく俺(おい)が島津中務少輔豊久じゃ。」
豊久が名乗った途端、土方歳三はそれまでの無表情を崩し愉悦に顔を歪ませた。
「貴様がその紋を付けているという事それだけで…
島津、薩州の者という事だけで
貴様を斬る100万の理由に勝る。」
ああ、やっぱり。
私の考えた通りだ。
土方歳三は島津を心底恨んでいる。
そんな相手に豊久が立ち向かわなければいけないなんて……。
痛いくらいに胸が締め付けられるけれど、豊久はそんな状況など何処吹く風のようだった。