第3章 Triple fighter
あ……そうか。
信長様は私が『豊久』と呼ぶのを初めて聞いたんだ。
そう思ったら急激に照れ臭くなって、私は慌てて言い訳をする。
「いやっ……あの……
何も特別な意味は無くてですね……
そう呼べって豊久が………あっ……」
また『豊久』と言ってしまった事に、顔を赤らめ俯いてしまう。
「いやいや、構わんぞ。
仲良き事は良い事じゃもの。」
くつくつとからかうように笑う信長様の手が突然私の頬を撫でた。
「………っ!」
驚いて顔を上げると、今度は僅かに切な気な視線が向けられていた。
「少しばかり……妬けるがの。」
「信長様……?」
頬に添えられたままの信長様の手から、その温もりが伝わって来る。
それがとても心地好くて、気持ちが凪いでほうっと落ち着いた。
「前にも言ったが、を見ておると帰蝶を思い出す。
何処がどう似ておるかと問われれば
上手く説明は出来ぬのだがな。」
「帰蝶……濃姫様ですね。」
「ふむ……の時代では濃姫と呼ばれておるのか。」
「はい。
とても美しくて理知的で、気丈な女性だったと……」
「そうじゃそうじゃ。
その通りじゃ。」
信長様は満足そうに何度も頷いた。
「あやつは義父……斎藤道三から託された俺の懐刀であった。
あやつが居なければ俺の天下布武も早々に崩れておっただろうよ。
結局は完遂出来ぬまま此処に飛ばされてしまったが……。」
「愛していたんですね?」
何気無く聞いた私の問い掛けに信長様は照れてしまったみたいだ。
動揺を隠すように1つ咳払いをしてから返事をした。
「おお……間違い無く愛しておった。
あれ程の女に出会えるのは奇蹟に近い。」
いいなあ……そういうの。
私だって子供じゃ無いから、いつか王子様が……なんて夢見てはいないけど、それでも運命だと思える人に出会ってみたい。