第13章 AFFECTIONATEー深愛ー
「分かります……自分の事だから。
きっと私はもうこの世界には必要無いんだって…。
だったら豊久に無様な姿を見られたくない。」
声は震えてしまったけれど、不思議と涙は出て来なかった。
只どうしても信長様の目は見られなくて、私は顔を上げる事が出来ない。
そんな私の頭を信長様の手が優しく撫でてくれた。
「か弱き女子である癖に、
その誇り高き志は百戦錬磨の武将と同様じゃな。
自らの死を秘匿しろと告げて逝った武田晴信を思い出す。」
「そんな立派な人間じゃないですよ、私は。」
まさか自分の存在が信長様の好敵手、あの甲斐の虎、武田信玄と重ねられるなんて……。
それが何だか凄く可笑しくて、私は微笑みながらやっと顔を上げる。
「もしかするとは……
土方を救う為にこの世界へ遣わされたのかもしれんなぁ。」
信長様の言葉に、私の弱った心臓がトクリと小さく音を発てた。
「私にそれが出来たでしょうか?」
「おお、充分であったぞ。
見事であった。」
「そう……ですか。」
もしそうだったとしたら、嬉しくて堪らない。
この時になって漸く私の視界がじわりと滲んだ。
「それにのう……
俺と与一もには随分と救われた。」
「……え?」
「あの総大将を簡単に操れるのはだけじゃもの。
お前が居なくなってしもうたら、
この先どうやってお豊(トヨ)を制御すべきか不安での……」
心底困ったように苦笑する信長様を見てクスクスと笑ってしまうと、突然私の身体は信長様の両腕に囚われ、その胸にそっと抱かれる。
「本当に……
が居なくなるとは淋しくて堪らん。
だが……お前が己で決した事ならば貫き通せば良い。」
「信長様……」
そして信長様は私の額に優しく口付けた。
「………良き途を行け。」