第9章 Blue Velvet~那須与一~
お豊(トヨ)の鋭い視線を受け止めながら僕は考えた。
さんの身体にはお豊(トヨ)の痕跡が在り在りと残されている筈だ。
さんは隠してたつもりかも知れないけど、僕も信長殿もそれに気付いてた。
お豊(トヨ)の溺愛に付き合わされていたさんに少し同情したりもしたよ。
だけど今はその痕跡こそがさん自身を護る最後の砦かもしれない。
さんの身体からお豊(トヨ)の匂いを嗅ぎ取った土方某は、さんを犯すだろうか?
……………否、それは考えられない。
自分が手に入れる筈だったさんが既にお豊(トヨ)に奪われていた。
あの島津豊久に。
当然さんを手放す気は無いとしても、その身体に自分の痕跡を上書きするのは…………
お豊(トヨ)を殺してからだ。
僕ならそうする。
「大丈夫。
さんは穢されたりしない。
お豊(トヨ)が土方某と決着を着けるまでは。
土方某はさんを穢したりしないし、
他の廃棄物(エンズ)からも護ってくれる筈だ。」
僕はお豊(トヨ)の視線に負けない程の強い口調でそう告げた。
理由を問われても上手く説明は出来ないけど、この僕の考え方は絶対に間違ってはいない。
「………本当にそう思うんじゃな、与一。」
お豊(トヨ)の問いが低く響く。
だから僕も一切の迷いも無く頷いた。
「うん。絶対だ。」