第9章 Blue Velvet~那須与一~
僕が廃城に戻るとまだお豊(トヨ)が喚き散らしていた。
さんが居なくなったと気付いた途端、鉄砲玉の如く飛び出して行こうとしたお豊(トヨ)を僕と信長殿で何とか抑え込み荒縄で拘束したんだ。
いや、苦労したよ。
勿論お豊(トヨ)の気持ちも痛い程分かるけどね。
でも何の情報も策も皆無で行動したって、求める結果が得られる訳は無いんだ。
「解けっ!
信(ノブ)っ!与一っ!」
荒縄でぐるぐる巻きにされ床に転がされてるお豊(トヨ)は、今にも噛み付きそうな顔をして僕と信長殿を恫喝する。
「喧しいっ!
俺も策を廻らせておるのだ。
暫し待たんかっ!」
信長殿も何時に無く苛立たし気だ。
「こうしておる間にもが殺されるかもしれんど!
俺(おい)が救いに行かんと………」
「さんは殺されないよ。」
僕はお豊(トヨ)の前に屈み込んで言った。
「さんを簡単に殺して仕舞う程、
彼奴等も馬鹿じゃ……」
「与一。」
僕の言葉を遮ったお豊(トヨ)は、今まで激昂していたとは思えない程の冷静な目をしている。
その鋭い視線に射抜かれて、僕は僅かに息を飲んだ。
「命の遣り取りだけの話をしとるのでは無か。
が穢される様な事に為れば
の心が死んでしまうど。
それは殺されたも同然じゃ。」
お豊(トヨ)の言っている意味は良く分かる。
例えばさんが土方某に穢されたとして……
それでもさんがお豊(トヨ)の元へ戻りたいと望むならば、お豊(トヨ)は何の蟠りも無く正面から受け入れるだろう。
でもそんな事に為れば、さんはきっと僕達の所へは帰って来てくれない様な気がする。