第7章 restart
「ああ……風が気持ち良い。」
廃城から出て大きな満月を見上げながら1つ深呼吸をする。
明日には北方の漂流者(ドリフ)との交渉を終えたサン・ジェルミさんが戻って来るらしい。
また戦う事になるのかな。
ふと土方歳三のあの澱んだ無機質な視線を思い出し、ぶるりと身体を震わせた。
その時………
「今晩は。」
背後から聞こえた声に驚いて肩を弾ませる。
振り向いたその先に居たのは、流れるような黒髪を湛えた平安朝の装束を纏った男性。
「……って君だよね?」
………この人、私の事を知っているの?
「あの……貴方は?」
警戒心も顕に問い掛けてみると、彼は人懐っこい笑顔を浮かべて答えた。
「僕は九郎判官義経。
僕の事も知ってくれていたら嬉しいなぁ。」
九郎判官義経って言う事は………源義経。
弱い立場の人に対しての同情や哀惜の心情を表した『判官贔屓』という言葉の語源になった人。
そして与一さんを従えて平氏と戦った人だ。
また現れた歴史的偉人に私の気持ちは逸った。
与一さんと深い関わりのある人物だと思えば警戒心も簡単に解けていく。
与一さんに会いに来たのかな。
「あ、与一さんは中に……。
呼んで来ますね。」
そう言って廃城に戻ろうとした私を
「違うよ。与一じゃない。
君に会いに来たんだ。」
彼の抑揚の無い声が引き留めた。