第5章 雄英、調査期間
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「…あんたが生徒と私的で会っていただなんて知りませんでしたよ」
俺は物凄い速さで走り去る犬猫山の後ろ姿を見た。……個性なしであれだけ走れるなら、中々の身体能力だな。余裕でクラス中位にいけるだろう。やはり体力測定は手を抜いてやがったな。
「あ、相澤くん…その言い方には少々の語弊がある。彼女とは別にそんなものじゃなくてだね…」
「語弊も何もあんたが私的で会ってたのは事実でしょうが」
「うぐっ!!」
しかし……。段々遠くに行く犬猫山の姿から目をそらし、俺はオールマイトを見た。
「…正直意外でした。あいつのあんな顔、初めてみましたよ」
横顔だけでも分かったこと。いつもは読めないあいつだったが、その時だけは違っていた。それも二人の間に何かあるのではないかと少しばかり疑ってしまうくらいには。
「……相澤くんも気づいていたのか。……彼女、幼い頃にヴィランによって両親を殺されているんだよ」
「………やはり、あの事件の被害者でしたか」
「まぁ、私たちの間でも有名だからね。あの事件は」
オールマイトがため息をつく。まぁ、鬱陶しいくらいポジティブなこの人がため息をつきたくなるくらいに、あの事件は悲惨でそして胸焼けがするくらい救いようがなかった。今でも現場写真を見ると、吐き気を催すくらいに、それは鮮明に脳裏に焼き付いている。
「そう言えば君、現場を見たんだっけ?」
「………ええ。酷いものでした。床に倒れている被害者たちは……ほとんど人として原型を留めていませんでした。犯人は死亡後も被害者たちを切り刻み…唯一の生き残りの娘の反応を楽しんでいたようです。……その娘が無事救出されたときはどんな熟練のヒーローであっても目を背けるほどでしたから」
「…………酷いな」
拳を握りしめ、オールマイトさんは言った。怒りを滲ませて。
「……………そんな辛い過去を抱えながら、ヒーローを目指すなんてね。強いよ彼女は」
そうつぶやくオールマイト。
「……かなり危ういとは思いますけどね」
おれはそう呟いた。