第5章 雄英、調査期間
「…………彼は……」
私が口を開くと、緊張した面持ちで視界の端で数名の人が唾を飲み込むのが分かった。
「彼は改造人間だと、主犯格である死柄木弔という男が言っていました。改造人間、つまりは理性も思考する力もないただの平和の象徴を抹殺する兵器だと。私の個性が有効か否かで答えるならば、前者でしょう。」
その言葉にしてやったりと言った様子の顔をして、顔を見合わせる数名の男に私は言葉を続けた。
「しかし、それをすることはできません」
「……なに?」
「言ったでしょう。制限があると。私は動物の言葉が分かり、彼らとコミニケーションが取れます。しかし彼とは取れませんでした。簡単な動作を咄嗟にさせることは出来ましたが、彼は基本的に死柄木弔の命令で動きます。
………貴方方が脳無で何をしたいのかは知りませんが、彼は静かに眠らせてあげるべきです。彼もまたヴィランによって人生を狂わされた被害者の1人なのですから」
「………く、口を慎め!! 我々はヒーローだ。ヒーローでもないただの学生に言われんでもそんな事は分かっておる!!!!」
初めて声を荒げ、私を睨む男達。……馬鹿だなぁ。それじゃあ、する気満々でしたけど、いざ言われると体裁に悪い…と言ってるようなものですよ。
「……失礼しました。しかし、ヒーローと言えど人。犠牲者を減らし、人々の安永を望む貴方方にとって、脳無という存在に興味を惹かれてしまうのではないか…と浅はかな考えに至ってしまいました。無礼をお許しくださいませ」
そう頭を下げると、歯をきしませながらゆっくりと席に座る男。
「私もそんな貴方方に憧れてここにいる1人です。どうか愛する家族と、多くの綺麗な花で彼を弔って下さい。そして、もうこれ以上彼のような犠牲者が出ないことを祈ります」
その時、昼休み終了のチャイムがなった。会議室は沈黙に包まれたまま私は返された。
…………少し喋りすぎたか。だが、これで付け回されることもないだろう。
私は廊下を歩きながら、ため息を一つ吐いた。