第12章 楽しい楽しい林間合宿
一瞬の差…それが左右した。必死に伸ばした手が宙をきる。俺より先に手が届いたそいつが口角をあげる。
「哀しいなあ、轟焦凍、確認だ、“解除”しろ」
圧縮する個性を持つ男が悪態をつきながら指を鳴らす。
パチンっと、弾けた球から姿を現したのは、状況が分からないという顔の常闇と爆豪、そして継ぎ接ぎだらけの男の腕の中に抱えられる夜蝶の姿だった。やけに大切そうに抱き抱えるを男が、満足そうに問題ないと口にしてワープの闇へと入っていく。俺は手を伸ばし、夜蝶は俺の顔を見た。
「かっちゃん!」
隣では緑谷が爆豪に向かって、叫んでいた。爆豪は一言。
「来んなデク」
俺も叫んだ。もう何度目になるか分からないその名を呼ぶ。
「夜蝶!」
ヴィランに抱き抱えられているあいつは、俺の呼ぶ声にハッと驚く表情を見せる。
「……私は大丈夫…だから来ないでね」
泣きそうな顔でか細くそう言い切ると、段々闇があいつを覆っていく。俺と緑谷の叫びは、ワープとともに虚しく掻き消えてしまった。