第11章 演習試験
クロシロが猫じゃらしに飽きたようで、私の方へと戻って来ると共に、私はそろそろ帰るかと腰を上げた。
「えー…もう帰っちゃうの?」
子供たちは不服そうにしたが、彼らの母親が帰るよと声をかけると、特にごねることなく去っていった。
「犬猫山くん」
「八木さん!?」
後ろから現れた八木さんに私は驚愕の声を上げた。彼の頬には殴られたような怪我があり、さらには全体的に損傷を負っているのが一目で分かったからだ。
「どうされたんですかそれ!?」
何もしなくても倒れそうな八木さんに暴力を振るうなんて…どこの誰だよそいつ!!
「あ、いやいや…これは…その……組手に付き合っただけだから!!気にしなくていいよ!!」
私の反応を見て、慌ててそう答える八木さん。
「組手って…八木さんって、絶対安静にしとかないといけない人でしょ」
という言葉を飲み込んで、私は曖昧な返事を返す。顔見知り程度の私が何かを言う資格なんてないし。
「い、今帰りかい?」
明らかに話題を変えようとする八木さんに、私は思わず笑みがこぼれた。この人の、この嘘のつけなさそうな素直な感じが、私はとても好意がもてた。