第10章 君の絵*十四松
side.一之瀬
太陽の反射で水面が煌めく川
今日はここにしよう
土手に座り、スケッチブックを取り出す
鉛筆を走らせて下書きを始めた
今日は調子いいかも、なんて自画自賛
?「12556!12557!」
どこからかカウントが聞こえてきた
周りを見渡すと、野球のユニフォームを着て素振りをしている子がいる
汗をかいてるのが見えるけど、本人はとても楽しそうだ
ま、いいや。続き続き
もう少しで下書きも終わる、そんな時
?「何してるの?!」
「きゃあぁぁ!」
突然至近距離で大声を出され、心臓が飛び出そうになった
「な、何、誰」
?「十四松です!」
さっきと変わらない大きさの声で言いながら、ガバッと頭を下げる
名前かな?
十「僕十四松。なにしてるの?」
あ、ちょっと落ち着いた
「私は一之瀬。絵を描いてるの。画家を目指してるんだ」
十「へー」
さして興味が無さそうに返される
その目はスケッチブックに向けられたまま
十「他にも絵、ある?」
「うん、スケッチブックみていいよ」
十「あざーす!」
口をカパッと開けて笑う
おっきい口だな
何枚かペラペラと捲りながら真剣に絵を見つめている
十「すっげーうまいね!」
目線をこちらに向けて言い、ニパッと笑う
なんだか可愛い
「そうかな、ありがとう」
十「ね、ね、僕!僕描いて!」
ズイッと顔が寄る
近い近い近い!
「描く…から離れて」
十「えー、一之瀬ちゃん可愛いから近くがいいのに…ションボリ」
肩を落とし、眉を下げる十四松君
子どもの様に素直に感情を出すんだなぁ
十「僕、どんな風になるかな?!」
「十四松君はどんなものが好き?」
ただ表面を描いてもつまらない
十四松君がどんな人なのか知るのも必要だと思った
十「やきう!」
「ユニフォーム着て素振りしてたもんね」
十「あ、あとね」
俯いてモジモジしている
やっぱり可愛い
十「一之瀬ちゃんも好き、かな。一之瀬ちゃんの絵も」
顔を上げて一文字ずつ丁寧に紡ぐ
でも口は開いてて、顔が赤くて、真剣にこちらを見据える目
私は考えるより先に鉛筆を動かしていた