第4章 羨ましい*チョロ松
side.一之瀬
赤塚商店街にある小さな喫茶店
常連さんが入れ替わりにきてくれる程度だけど、夢だった自分の店
最近ここで1つの楽しみができた
カランカラン
「いらっしゃいませ」
来た!
「やー、松野氏。今日もいいライブでしたなぁ」
チ「そうだね、セットリストもいい感じだったし」
近くのライブハウスで地下アイドルの応援をしているらしい団体さん
その中にいる、緑のチェックのシャツを着た『松野さん』
名字以外知らないけど、楽しそうにアイドルの話をする彼を見るのが好き
「ご注文は?」
チ「あぁ、アイスで」
ほんの一瞬向けられた目
目が合った、なんて舞い上がる歳でもないけどトクンと小さく胸が鳴る
言い終わると、また仲間に視線が戻る
興奮して頬を赤くし、身振り手振りで話す松野さん
そんな姿をみてると、応援されているアイドルが羨ましい
あんなにも彼の心を掴んで離さないなんて
注文されたものを運んでも、「どうも」ってそっけなく言われるだけですぐに話が再開される
ひとしきり話すと会計を済ませ、帰っていく
「ありがとうございました」
チ「いつもうるさくてすみません。ごちそうさま」
「あ、えと、また来てください」
ニコッっと笑い「ありがとう」と言って行ってしまう
あぁ、もっと色々話せたらいいのに
でも、彼が好きなアイドルは知らないし・・・そもそもどんな人なのかもよくわかってないのに
「はぁ…」
ただの店員と客
変えられない現状に溜め息が出た