第20章 いいえ、空耳です。
「人肌に飢えた一匹オオカミってとこだな」
ぐっと胸倉をつかまれ、そのまま接吻。
遠慮するような、他人にするようなものじゃない。
互いを知りつくして、それでもなお足りないと求めるような。
「めんこいって、言われたい顔だ」
「俺はめんこいだろ? 間違いなく」
「あぁ」
ぐちゅ。と音を立てたのは互いの唾液が混ざりあう音。
体勢を戻し、息が切れるまで、味わう。
ありえないほど満たされる。
「あんまり、脱がすなよ。ここは山ん中だ、俺の言うこと聞かねぇと死ぬぜ?」
「じゃあ、素直にケツ出せ。いや、その前にしゃぶれ」
倒木に座った百之助の前に屈み、取り出されたいきり立つブツへ鼻を近づける。
「じゃあ」
「存分に」
やさしくなんて必要ない。
遠慮なんて要らない。
俺は百之助を欲しいだけ貪る。
何も不安に思う事はない。こうやって秘密に触れていられるだけで俺たちは運命共同体なのだと感じさせてくれる。
俺だけかもしれないなんて考える必要はない。今この場所には俺と百之助しかいないんだから。
「十兵衛、俺を見ろ。見ながらしゃぶれ」
「ふきふぁねぇ(好きだねぇ)」
「喋るな殺すぞ」
限界まで喜ばせる。
「ケツ」
「はい」
熟練の夫婦のような阿吽の呼吸。
「うんっ……んん!」
「あぁ……いいな」
ぢゅっ、ぐちゅ!と夜の森に響き渡る奇妙な音、夜行性の動物が不思議がって覗きに来る。
でも、そんな事は俺たちの耳にも目にもとまらない。
「ひゃくの、すけ!」
「黙ってろ、十兵衛!」
ここがどこだっていい。
百之助がそこにいるだけで俺はいい。
「いくぞ、十兵衛! 全部持ってけ!」
これで満たされる俺は、獣と呼ばれても仕方がないのだろうか。
(あ。俺のオヤツ百之助に盗まれた)
(寝ずに逃げて正解)
(ク・セマシテク)