第20章 いいえ、空耳です。
久しぶりの山道に柄にもなくワクワクしていた。
銃も持たず、弓矢も持たず、ちょっとでかい鉈一本で山に分け入るなんて子供のころ以来だろう。
どうして俺がこんな山の中にいるかって、そりゃ気分転換。なわけねェだろ。
ちょっとな、あいつの声が聞こえたもんで。
「よぅ。百之助」
「……来る予感がしてた」
俺たちの関係なんてそんなもんさ。
暗くなり始めれば足を止めなければならない。腹も減るしな。
「よくこんな山奥で俺を見つけたな、十兵衛」
「俺を何だと思ってる」
「犬、猫、虫……虫以下」
「…………」
虫は初めてだな。それも、虫以下と?
「そんな虫以下の奴を抱いてよがってるお前も同類だろ」
「それはいただけない」
「いただけよ。嬉しそうにしやがって」
「……人の心を読むな」
闇に包まれる森の中は恐怖が多い。
灯りは焚き火のみ。その明かりに照らされて見える隣の奴の顔が唯一の安心材料だ。
それはお互いさま。
「訂正する。十兵衛、お前はオオカミだ。ただし、群れからはぐれた一匹オオカミだ」
「おぉ。随分良い評価だねぇ」
ぬ。と百之助の顔を下から覗き込む。
……結構真剣に考えてくれていたようだ。