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俺のコタンは、あなたの腕

第12章 欲しいのは愛じゃなくて




ココン、コン、ココン。

「開いてるよ。」

独特な吹聴で叩かれる戸は、俺をアツくさせる。
まるで自分の家かの様に、遠慮せず入ってきた男に笑って見れば、はぁ。と一つため息を貰った。

「やめろ、その顔。」
「髪、伸びたね?」
「格好いいだろ?」
「俺はそっちの方が好きだ。前の坊主頭より。」
「お前は、その伸ばしっぱなしのぼさぼさをなんとかしたほうが良いと思うけどな。」
「お前の猫だから。」
「意味が分からん。」

几帳面そうな性格が窺える軍服の上着を脱ぎ、そこらへ投げる。
小さな卓すらない、褥だけが敷かれた部屋。
灯りもままならず薄暗い。
畳みは歪んでいて、壁は薄い。
擦りガラスからは冷たい空気がここぞとばかりに入りこみ、唯一ある火鉢から離れる事が出来ない。

「迎えの茶すらないと来た。」
「まさか。欲しい?」
「お前が居ればいい。」
「…どうした?」

いつもと様子の違う男に俺は思わず聞いてしまった。
他人が何で苦しんでいようと悩んでいようと、俺は一夜の相手をするだけ。
しかし、こいつは違う。
気に掛かる。
どこか危なげで思わず手が出る。

「いや。少し思う所があってな。お前は関係ない。関係ない。」
「百之助。無理に話せと言ってるんじゃぁない。」
「わかってる。お前はそう言うやつだ。」
「ならいいさ。百之助は俺の名前を呼んで、呑気に腰さえ振ってりゃぁいい。今だけは。」
「来い、十兵衛。」
「お手柔らかに。百之助。」



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