第8章 ルテホ界世幌札
札幌滞在時は常に札幌世界ホテルに留まる。
時折背中に冷たい視線を感じなくもないが。
「家永。」
「なんです。」
「冷たいなぁ。今夜も部屋を借りていいかい?」
「最近。時期が過ぎたのでお客が減ったんです。」
「はいはい。何となくたくさん連れてくればいいんだろ?」
キッ。と鋭い視線でこちらを睨みつけるのは女性。
見た目こそ若々しくてお美しい女性だが、こいつの股には立派なチンポが付いている。
まぁ、悪趣味だよな。
同物同治だなんて。俺は遠慮だぜ。
ウェー!
「あっと!俺が来てる時だけは、殺さないでくれよ。俺の客が減っちまう。」
「しったこっちゃない。」
「冷たい。」
すすきのをちっと歩きまわれば、客は沢山いる。
とはいえ今日は久しぶりの札幌だ。
良い顧客の所へ一番に顔を出すのが習わしってもんだ。
「若山喜一郎さん?」
「たぶんそれ。若山さん。えっと、俺、蜂名十兵衛。名前言ったらわかると思うから。」
こちらは本物の女の人。
伝言を受け取るとさっさと建物の中に入っていく。
しばらく待たされると、ずんぐりむっくりのおじさんが大層な毛皮の上着に身を包んで現れた。
「蜂名。」
「や。久しぶり。今夜暇かい?」
「久しぶりだな。盛り上がるとするか。」
「話が早い。ホテルで待ってるぜ。あぁ、女将がたくさん客を連れて来てくれとさ。」
「わかったわかった。」
昼間はあっさりと。
昼間っから客と戯れるなんて、目の前に大層な金を積まれなきゃまっぴらごめんだね。
ホテルで家永の冷たい視線を受けながら、掃除に洗濯を手伝って時間を潰す。
「いらっしゃい。」
「これで満室になるかな?」
若山の後ろにはたくさんの柄の悪そうな部下。
隣で一緒に客を迎えた家永の目が俺に言う。
「(上玉がいません。)」
「(やくざの上玉って何だよ!なに基準!?)」
若山は俺の客。
その他の客はこのホテルの女将、家永に任せる。
早速俺の部屋に連れ込み、よろしく始めようと腰帯を解く。