第7章 新しいともだち
どっかの誰かさんが新鮮なニシンが食いたいと我儘を言うから、俺はムカついた。
ムカついたから市場ではなく、わざっわざニシン場まで足を伸ばしてみた。
「すんません。ニシンを分けちゃくれませんかね?」
「えっ!」
「え?」
ニシン漁をする人らの集う番屋の戸を開けると、ちょうど着替えをしている男に出くわしてしまった。
「刺青。」
「ど、ど、ど、どうぞ中へ。」
「じゃぁ、失礼して。」
刺青の男は突然俺の後ろに走ってきて、扉を閉め鍵まで締める。
これはこれは。
ご丁寧に命の危機。
帯を片手にふんどし一丁。
「ど、どうぞ中へ。」
「いやだね。俺を殺す気だ。そうだろあんさん?」
「いっ、いえ!そんな事は!」
「あんさんは元囚人だ。どんな罪で投獄されてたのかは知らねぇが、危ない人には変わりねぇ。」
「わ、私は、その…」
「構えんな。やめろ。」
囚人は両手で帯の端端を持ち、じりじりと俺に近づいてくる。
まずい。これは非常にまずいぞ。
驚いた。
囚人は獣のように俺に一歩踏み出してきて、言葉通り飛びかかってきた。
仕方ない。
親父にしこたま仕込まれた、綜合武術格闘術を披露する時が来たか。
「ふっ、はっ!」
「えっ?」
「はっ!ま、こんなもんか。」
囚人はあっさり俺に組み敷かれ、キョトンとしている。
キョトン?
はぁはぁしてるぜ?
「おいおいおい?あんさん、変態かい?」
「へ!?」
俺を殺そうとした奴のチンポを掴むのは気が引けたが、職業病だ。
手が伸びてしまいました。
「なぁなぁ。俺ぁ根なし草の男娼だ。金さえありゃ囚人とだって寝るぜ?」
「いやっ、私はそう言う趣味では…」
「ありゃ。じゃぁ、どうして?」
大人しくなったので、囚人の体の上から退き、引っ張り起こしてやる。
番屋の囲炉裏に座り、少し彼の話を聞くことになった。