第4章 紅い瞳の魔法使い
あれからひと月経ったけれど、アラン様はお店にいらっしゃらなかった。
お忙しいとおっしゃってたけれど、もしかしたら大切な会話から逃げてしまった私に愛想をつかせてしまったのかもしれない。
もう会えないのは嫌だな…
お客様としてでいいから、どうかお会いできますように。
プリンセスは、あれからすぐに、執事の方と一緒にお店に来てくださった。
大切な方への贈り物に…と、眼鏡ケースをオーダーなさって、一からデザインを一緒に考えたり…
あのふんわりとした笑顔で、私はすっかりプリンセスの虜になってしまって、ご来店される日が楽しみだった。
執事のユーリ様がお茶の美味しい淹れ方を教えてくださったり、プリンセスが気に入ってくださった蜂蜜入りのミルクティーを、ユーリ様が褒めてくださったり…
オーダーされた眼鏡ケースが出来るまで、すごく楽しい時間を過ごさせていただいた。
「あ、そうだ!さんに良いものを持って来たよ。」
眼鏡ケースはとっくに出来上がって、プリンセスとはもう会えないと思っていたある日…
ご公務のついでに、と、プリンセスとユーリ様がご来店された。
良いものを、とユーリ様がくださったのは…
「招待状?」
上質な紙で出来た封筒には、王宮の刻印が押されている。
「そうだよ。プリンセスと…プリンセスが選んだ方のお披露目パーティーがあるんだよ。」
そう言うユーリ様と、少し赤くなっているプリンセス。
「さんに是非来て欲しくて。」
プリンセスはふわりと微笑む。
「あの…私なんかが…」
超がつく程一般庶民な私には、王宮でのパーティーというものが想像もつかない。
「さんは来るべきだと俺も思うよ。」
ユーリ様まで…。
「さん、必ず来てね。」
お二人はそう言ってお帰りになった。
ああどうしよう。
パーティーだなんて…いったい何を着ていけばいいんだろう。
パーティーは十日後。
アラン様にお会い出来る…
もしかしたらプリンセスがお選びになったのがアラン様だったら?
でもアラン様はあの日私にキスをくださった。
はぁ…
窓から差し込む木漏れ日に、小さくため息を落とす。
作ったばかりの革細工の薔薇のコサージュに、どうすればいい?と小さく聞いてみた。