第3章 夢ならまだ覚めないで
シチューのお鍋を混ぜていると、なんとなく後ろから視線を感じて振り向いた。
「やっと気付いた。」
苦笑したアラン様が、キッチンの入り口に寄りかかって腕を組んでる。
「す、すみません!アラン様のお口に…って考えたら緊張してしまって…集中しすぎました…」
「なあ…」
キッチンの中に入って来たアラン様は、シチューを混ぜている私の背後までいらして…
「何にも聞かねえの?」
と言って、後ろからぎゅっと抱きしめられた。
「えっと…あの…」
聞くって何をだろう…えーっと…
っていうか…さっきアラン様と…
「キス…」
そう呟いたところで、はあ〜っと大きな溜息が聞こえて来た。
「無かった事にされてんのかと思った。」
「無かった事になんて!びっくりしすぎて…それで…それよりもアラン様がお疲れなのが気になってしまって…」
さっきのキスが蘇って来て、顔に熱が上がるのがわかる。
「耳…赤いな…」
アラン様は耳元で囁いたかと思うと、耳にキスを落とされた。
くすぐったくて、肩がぴくりと上がってしまう。
「お前今日…あいつに…プリンセスに妬いてたろ?」
な…何を言い出すのかと思えば…アラン様にバレてるなんて恥ずかしくて身の程知らずすぎて…
「すみませ…」
「正直ちょっと嬉しかった。」
身の程知らずですみませんと言おうとした言葉は、アラン様の言葉に遮られ、ぎゅっと抱きしめてくださってる腕に力が込められた。
グツグツグツと、お鍋の蓋が踊り出して、同時に緩められた腕から抜け出して、慌てて火を消す。
「た、食べましょう!」
アラン様の言葉はとっても嬉しかったはずなのに…
どうして私にキスなんてしたのかを聞きたいはずなのに…
それから、アラン様は逃げてしまった私を深追いはせずに、美味しいと言って、お料理達を召し上がってくださった。
「ごちそうさん。美味かった。」
その声色はとても優しい。
アラン様の声色やしぐさや…全てに胸が高鳴る。
あなたをお慕いしております。
言ってしまいたい気持ちを抑えて、お見送りをする。
「しばらく仕事が立て込んで来れねえんだ。」
アラン様は低めの声で言い終えると、頬にチュ、とキスをひとつ。
「おやすみ。またな。」
カランカランとドアの鐘が鳴る。
頬に残る温もりは、嬉しくて切なくて苦しかった。