第6章 虹村家の娘 6
音石の顔から笑みが消え、変わりにほんの少しのイラつきが漂い始める。
しまった、と気付いた時にはもう遅い。
「お前よォ…立場分かってんのかよォ〜?」
こちらへ歩み寄る音石。
逃げようにもベッドの上からでは逃げられない。
そもそもこの男からは逃げることなど出来ないだろう。
私の背中に壁があたる。
音石は、もうこのベッドへ片膝をかけている。
「今日はこの後ライブと打ち上げあるから手は出さねぇよ…明日は死ぬほど可愛がってやるからよォ」
そう言って私の襟に手を伸ばす。
「今日は痕だけな?」
抵抗する間もなく引き寄せられ、力まかせに噛み付かれた。
「いった…ッ!」
死んだ方がマシだ。
こいつ、絶対にただじゃおかない。
音石は出ていく前にスタンドをこの部屋のコンセントに忍ばせていた。
私を監視するためか。
私はベッドの上で寝そべりながらどうするか考えていた。
奴はいつ帰ってくるのか。
形兆、心配してるよなぁ。絶対。
とりあえず寝るのは危険だ。
そう思い時計を眺めて待っていた。
1時。2時。3時。4時。5時。
まだ帰ってこない。もうすぐ夜が開けてしまうのだが。
もしかしたら、承太郎さん達がアイツを捕まえてくれたのかもしれない。
6時。7時。8時。9時。10…!
睡魔を退けるために見ていた窓の外に、とても見なれた人影を見つけた。
慌てて窓を開け放し、その名を呼ぶ。
「形兆!!」
どうやら気付いてくれたようで、しっかりと目が合った。
今まで見たことの無い、安堵に満ちた表情。
私は躊躇わず窓から形兆の胸へ向かって飛び降りた。
「よかった…!アイツに殺されてなくて」
「形兆探しに来てくれたの?ありがとう、怖かった」
人質にされてたり脅しのダシにされたり、お互い気が気でなかった。
それが今、こうして会えたのだ。
しかし、再開を喜んでいる場合ではないようだ。
「承太郎さんたちによると、仗助の親父がこっちに向かってるらしい。もしかしたら音石の奴がそっちに向かうかもしれん」
「俺はお前を探せと指示されたが、見つかったからには戦えない理由はない」
私は大きく頷いた。
「正午には船がつく…杜王港まで行くぞ」
音石が電気に関するスタンド使いだと言うのは昨日のテレビの件で分かったらしい。